週末、バルコニー探訪

with Balcony編集部の女性スタッフが、
バルコニーづくりのヒントを求めて
街で見かけた気になるバルコニーやテラスを訪問!
自宅のバルコニーにも
活かせそうなアイデアを発見&ご紹介します。

Vol.09ご縁にあふれた、都会のお寺のオープンテラス

東京タワーの真下、六本木や虎ノ門といった大ビジネス街に囲まれた都心エリア・神谷町。そこに、周辺のサラリーマンや住民に愛される「神谷町オープンテラス」があります。名前だけ聞くと、オフィスビルの中にある都会的な商業施設のようにも思えますが……実はここ、お寺がひっそりと開放する境内のテラス空間。誰でも自由に利用することができ、時々カフェにも変身する、しかもお寺!? 興味が湧かないわけはないと、早速おじゃましてみました。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

本堂前でゆったりくつろぐ、時間を忘れそうな場所。

東京メトロの神谷町駅から徒歩1分、オフィスビルが立ち並ぶ一角に佇む浄土真宗本願寺派・梅上山光明寺。その歴史は1200年代までさかのぼるという由緒あるお寺です。到着したものの外からはテラスの様子が見えず、本当にここであっているかな? とドキドキしながら門をくぐり、生い茂る緑に導かれご本堂に続く階段を上ると……ありました! ゆったりと、静かに広がるオープンテラス。本堂前の広い空間にテーブルやソファが置かれ、誰でも好きな席を使うことができるように開放されています。飲食の持ち込みも自由。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

伺ったのは春の陽気を描いたようなお天気の日。平日のお昼休みを少し過ぎたころにも関わらず、テラスにはお弁当を食べる人や仕事の話でもりあがるサラリーマン、ひとり読書にふける女性、うとうとと休憩する人などがたくさん。「お仕事に戻らないで大丈夫かな……?」とこちらが心配してしまうくらい、みなさんのんびりと過ごされています。その中に混ざって空いていた広いテーブルに座ってみると、目の前にはまずお墓! そして緑に青空、東京タワーと、どこかシュールで、でも最高に気持ちの良い景色です。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

今は「テラス」と呼ばれている本堂前のこの広縁は、空襲で全焼した本堂を1970年に再建した際に設けられたもの。「本堂に上がらなくても多くの方が気軽に参詣できるように、こうした広い空間が設けられたのではないかと思われます」と、僧侶でオープンテラス店長でもある木原さんが教えてくださいました。

also Soup Stock Tokyo
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広縁が生み出す、“広いご縁”とゆるやかなつながり。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

光明寺が「神谷町オープンテラス」を始めたのは2005年。お寺が広く皆様の憩いの場所になるようにとの想いから、それまで何もなかった広縁をカフェのように設えました。「広縁」とはその字のごとく広い縁側を指す建築用語ですが、ここにいるともう一つの意味を実感します。それは、「広くご縁が生まれる場所」。 たとえばテラスに置かれている家具は、お寺の備品だったものもありますが、その他は活動に賛同したお店が提供してくださったもの。当初は簡単な飲み物のみをサービスとして提供していましたが、手伝ってくれるスタッフが増えるにしたがって温かい飲み物や手作りの和菓子などを提供する「おもてなし」を始めるように。
テラスの常連さんがご結婚されて、子どもを連れてお寺が主催するヨガイベントに参加してくれるなど、テラスに集う人たちとお寺とのゆるやかな「ご縁」がたくさん生まれていると言います。何よりびっくりしたのは、店長の木原さんご自身の経歴。実はもともと僧侶だったわけではなく、縁あってテラスの店長をやることになり、そこで様々な人と話をするうちに「自分も僧侶として人のお役に立てれば」と考えるようになったとか。

also Soup Stock Tokyo
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こうしたゆるやかなつながりが生まれるのは、もしかしたら「半戸外」という絶妙な空間が理由なのかな? と実感します。靴をぬいで本堂に上がらなくても、だれもが気軽に来ることができ、風や緑に囲まれ心がリラックスする。すると自然な状態で、居合わせた人との会話が生まれ、お寺に愛着や親近感を抱く。やって来た人とのご縁を深める“おもてなしの場所”として、テラスやバルコニーはちょうどいい距離感を実現できる場所なのかもしれません。

和菓子のおもてなしは、ぜひ自宅でも真似したい!

自宅のバルコニーもそんな“おもてなしの場所”として考えたとき、先ほども少し触れた光明寺の「おもてなし」はとても参考になります。これは「お寺カフェ」との愛称でも親しまれ、毎年4月から秋までの期間、予約された方優先で手作りの和菓子やほうじ茶、コーヒーを提供するというもの。手描きの看板(これも常連の方が描いてくださっているもの!)やメニューもちゃんと用意され、まさにカフェ。ただし金額は設定されておらず、お礼の気持ちで合掌とお焼香をしていただければとのことです。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

毎回季節に合わせたお菓子を用意されているそうで、この日の手作り和菓子はわらびもち。お寺という空間はもちろんですが、新緑の景色を眺めながらいただく和菓子はまた格別! 洋菓子よりも心が癒される気がするので不思議……。季節を感じやすいお菓子だからかもしれません。もし自宅バルコニーをうちカフェとして活用したいなと考えているなら、コーヒーとケーキも素敵ですが、ほうじ茶やお抹茶と季節の和菓子、なんておもてなしも趣があって良いのではないでしょうか。

バルコニーで彩り豊かな鍋物を

「オープンテラスを始めてから、私自身も四季の移ろいや光の変化に敏感になりました」と語る店長の木原さん。季節を愛でながら、和菓子とともにお客様を広縁でもてなす。日本らしいご縁の深め方を、思いがけず学んだ気がした探訪でした。

バルコニーで床座のお花見
バルコニーで床座のお花見

取材協力

梅上山 光明寺

  • 〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-25-1
  • ※「神谷町オープンテラス」に関するお問い合わせはhttp://komyo.net/kot/まで。