上⽥電鉄 別所線
千曲川橋梁(上⽥駅〜城下駅間)
FFU合成まくらぎ 現場レポート#02
積水化学が1980年にFFU合成まくらぎを開発し、おかげさまで45年が経ちました。
近年は国庫補助金を活用しながら、ご採用頂く鉄道会社様が増えております。
長寿命化や保線業務の省力化に欠かせない合成まくらぎについて、上田電鉄様にお話を伺いました。
Introduction
⻑野県東部に位置する県内有数の都市、上⽥市。戦国時代に真⽥⽒が築いた上⽥城を中⼼とする歴史ある城下町で、別所温泉や菅平⾼原など、観光やレジャーでも⼈気です。市内を流れる千曲川は、下流では信濃川と呼ばれる⽇本⼀の⻑さを誇ります。この千曲川に架かる印象的な⾚い鉄橋を渡るのは、上⽥市の中⼼部と別所温泉をつなぐ上⽥電鉄の別所線です。
2019年の台⾵による増⽔で崩落したこの橋は、地元の⽅々の応援や関係者の皆様の熱意で、1年半という短期間で復活しました。積⽔化学のエスロンネオランバーFFU合成まくらぎもその復旧に貢献しました。
合成まくらぎの使⽤状況や復旧の道のりについて、上⽥電鉄株式会社 運輸部の市村様に伺いました。
インタビュー : 2025年3⽉24⽇
助役 市村 謙⼈ 様
Guest
上⽥電鉄株式会社
運輸部 技術区 助役 市村 謙⼈ 様
Interview
迅速な復旧にFFU合成まくらぎが貢献
- ———市村様が担当される業務についてお教えください
- 私の所属する技術区は施設や⾞両のメンテナンス部⾨になります。助役という役職ですが、業務のメインは線路⼟⽊です。線路を巡回して枕⽊の検査や軌道の変位についての調査などを⾏って修繕計画を⽴て、設計や積算等々を⾏っています。
加えて簡単な線路の補修や突き固め、ホームの施設の修理など直営業務もできる範囲でやっており、現場も事務作業も両⽅担当しています。
⼊社時は保線業務を担当し、その後に運転⼠の免許を取得、それからまた保線に戻ってきました。今でも運転⼠が⾜りない場合には乗務しています。電気関係の作業もしますし、⾞両の台⾞取り換えのような⼈⼿が要る時には応援に⾏きます。⼈員も限られているので必然的に皆がオールマイティになるのが強みですね。
- ———枕木の使用状況についてお教えください
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全路線で使われている枕⽊の本数は、PC製や⽊製、合成まくらぎがあわせて約18,000本です。元々はすべて⽊枕⽊でしたが、PC製あるいは合成まくらぎ化を進めていて、6割程度を更新しています。ようやく⽊枕⽊の⽐率を上回ったくらいです。
ご覧いただいた下之郷駅のホーム下でも、⽊製とPC製が交互に並んでいたと思いますが、⽊枕⽊を順次スポット的にPCまくらぎ化しています。ホーム下は連続で悪い枕⽊にならないように交互に⼊れています。また別所線の特徴として急曲線が多いんです。R200や160など、かなりきついカーブ半径もあり、急曲線部は軌間拡⼤させないように集中的に更新を進めています。急曲線部と直線部の悪くなりそうな箇所で重点的にPCまくらぎ化を進めて、将来的にはすべて⼊れ替える計画です。
- ———PCまくらぎ化を推進する中で合成まくらぎを使われるのはどんな箇所でしょうか?
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PCまくらぎで対応できない箇所を合成まくらぎで対応しています。加⼯が必要、軽くしたい、⻑尺物が欲しい箇所、橋や分岐部は合成まくらぎを採⽤しています。合成まくらぎは軽いため、⻑持ちして軌道への負担が少ないのがメリットです。
橋梁も同様で橋への負担を少なくしないといけない。さらに1本1本の枕⽊の⾼さ調整が必要なので、加⼯が必須になります。橋梁の枕⽊を置く場所で⾼さが変わってきますから1本1本ミリ単位で違うのです。
橋梁はキャンバーと⾔って中央部が⾼い、⼭なりの構造になっていて列⾞が乗ることで平らになるように設計されています。
真ん中の⾼い箇所と端の低い箇所で枕⽊の厚みが当然違ってきますので、薄いところもあれば厚いところもありますし、また桁⾃体にも癖がついていたりするので、どうしても1本1本の加⼯が必要になってきます。
基本的には発注する際に図⾯を渡して加⼯されたまくらぎを納品してもらいますが、現場でやってみないと分からないことも多々あるので現場加⼯も必要になってきます。合成⽊材は現場加⼯性も強みですね。
- ———レールの継ぎ目部でもFFU合成まくらぎをご使用いただいていますね
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そうですね。レールの継ぎ⽬では列⾞が通過する時の衝撃が⼤きいため、継ぎ⽬箇所が沈下してきてしまいます。そこに重たいPCまくらぎが乗っていると、より沈下を進⾏させてしまいます。
もう⼀つの理由として、左右のレールの繋ぎの位置が若⼲違うので、レールから枕⽊などにかかる荷重を分散させるタイプレートの取付け位置が多少変わってきます。そういった時に合成まくらぎは調整しやすいのが利点です。木枕木の使用期間に関しては、材質にもよるのですが、本当に長いものは30年使われているものもありますし、劣化が早ければ10年で取り替えるものもあります。
全線を歩いて行う巡回検査は線路も勿論、側溝が詰まっていないかなど総合的に見て回ります。枕木を固定する犬釘が緩んでいないか1本1本叩いたり、枕木が破損してないか目視で確認したりします。
分岐器の検査では分岐器の中の材料・部材の点検や締め付けトルクも確認します。軌道は左右のレールの幅の広がりがないかを全線で機械を使って検査し、レールが摩耗し規定を超えてしまうような箇所はレール交換します。基本的には施設状況に応じて、更新計画を立てていきます。
検査で状態が悪い枕木が見つかればPCや合成まくらぎに更新したり、新しい木枕木と交換していきます。
- ———木枕木と交換する場合もあるのですか?
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同じ種類の枕木で直さないといけない場合があります。木枕木からPC製や合成まくらぎに替えるには手続きが必要で、時間的な制約などで手続き出来ない場合は同種交換と言って木枕木に交換します。
鉄道会社は地域の運輸局に工事を申請していて、何か新しいものや機能が追加されるようなものに変更する場合には全て許可が必要です。木製から木製は申請なしの通常の修繕ですが、PCまくらぎや合成まくらぎのように性能が変わる場合は事前の承認が必要になります。
まだ4割は木枕木が残っているので同種のものに交換せざるを得ない場合もあります。ただ、木枕木は天然のものですから品質のバラつきがあります。それに比べ合成まくらぎは工業生産品で品質が安定しており、助かります。図面通りに正確な寸法で製造され、反りもなく木特有の節がないため、犬釘を打ったら節にあたって割れたりするような心配もありません。
経年による劣化が少ない点も助かります。
木枕木だと、枕木自体がだんだん痩せて、橋桁と固定するためのフックボルトが緩むことがあります。合成まくらぎに更新することで、橋の上のような危険を伴う高所での保守作業の回数を減らせるのはありがたいですね。
- ———木枕木はどのように処分されるのでしょうか?
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木枕木は基本的に産廃処理になります。結構お金はかかりますね。1本何千円という単位になります。防腐剤が入っているので簡単には捨てられないのですね。圧力をかけて防腐剤を木の中まで染み込ませているので、臭いもするし、場合によっては染み込んでいない枕木もあり、橋の上で防腐剤が垂れてしまうこともあります。
その点、合成まくらぎは環境に優しいので良いですね。
- ———千曲川橋梁が被災した時の様子をお教えください
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2019年10月12日(土)〜13日(日)未明にかけ、台風19号による千曲川堤防の決壊や越水、その他河川や用水等の内水氾濫などが発生し100年に1度レベルの浸水被害となりました。
台風による大雨で、千曲川の広い土手いっぱいに水が来た、という状況でした。12日に規定雨量に達した時点で運転取り止めにして、翌13日の朝方に橋台が崩落し、5スパンある内1スパンが落橋してしまいました。確か8時半くらいです。朝明るくなった時点で、橋脚が傾いていました。現地で撮影してもらった城下駅側から1つ目の橋脚です。
我々も現場に行って確認しました。堤防がどんどん崩れ、危険な状況の為離れることになり、会社に戻ったところで橋が崩落したと連絡を受けました。社員の何名かは対岸の上田駅側から見守りましたが、堤防が浸食され近づけず、見守るしかなく途方にくれました。
とにかく出来ることをしようと、千曲川橋梁以外の路線の影響も確認するため、全線で点検作業を始めました。
復旧できるかどうかは経営陣側で考え、その間に社員は活かせるものは活かすという作業をしていました。
- ———被害状況はどうでしたか?
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被害状況を確認すると、下之郷駅から別所温泉駅の間は被害がなかったので、その区間は電車を走らせて、下之郷駅から上田駅まではバスで代行輸送することにしました。
その間に千曲川橋梁の手前の城下駅まで活かそうと、施設の電気関係の改修を行い、約1ヶ月かけて城下駅まで電車で行けるようになりました。お客様は城下駅まで行って、そこから1駅分の上田駅まではバスで代行しました。
橋の修復に関しては、幸いにも残った橋脚や軌道は影響が少なく、落橋部分だけの復旧で済みました。
千曲川橋梁は大正13年(1924年)に開通していて、100年近くもった橋台が流されたので、余程凄い台風だったということを物語っています。
2021年1月の年明けには軌道の復旧が始まって、夜に踏切を設置してその次の昼にレールを繋いだりと、昼夜なく復旧作業をして、ついに2021年3月28日に全線運転再開ができました。
橋が復旧できたのは本当に地元のお客様のおかげです。上田市にも「別所線をなんとか復活して欲しい」という声が多数寄せられて、その力もあり復旧にこぎつけました。
- ———当時の積水化学の対応はいかがでしたか?
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現場を見てもらい、計画を立てるに当たってまくらぎも「こういう寸法で使いたい」という要望に対し強度計算していただき、迅速に動いてくれました。先ほど申し上げた通り、まくらぎの厚みは橋の条件によって1本1本変わってくるので、架けなおした橋特有の寸法もあり、そういった箇所では色々相談に乗ってもらいました。
- ———運転再開が叶った時のお気持ちを教えてください
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2021年3月28日が運転再開の日でした。1番列車に乗るために上田駅の別所線乗り口から駅の反対側までお客様が並んでくれて。当日の早朝、私が夜間作業を終えた4時ぐらいだったと思いますが、お客様が並んでいるのが見えました。
6時の1番列車で出発式が行われ、入場の瞬間は感無量でした。実際には前日から試運転をしていましたが、実際にお客様を乗せるのはこの日が初めてで、運転士も緊張したことでしょう。その日は運賃無料で一日中超満員でした。地元の自治会の方々も旗を振ってくれて嬉しかったですね。社員も地元の者が多いので盛り上がりました。災害復旧は大変でしたけど、その日が来たのでそれまでの全部が報われました。
———こうして貴重なお話を伺うことが出来て胸が熱くなり、その一助を担えたことも誠に光栄に思います。積水化学としても鉄道に貢献できるよう努力してまいります。
FFU合成まくらぎ 現場レポートマップ
Products
今回ご紹介させていただいた製品
ガラス長繊維強化プラスチック発泡体
エスロンネオランバーFFU
製品解説———
エスロンネオランバーFFUは、硬質ウレタン樹脂発泡体をガラス長繊維で強化した合成木材です。天然木材に代わる素材としてあらゆる分野で使用可能。自然環境保護に役立つ素材として注目されています。

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1.天然木材のように

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2.プラスチックだから

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1.水処理施設に

覆蓋
耐久性に優れ、水に浮く軽さを持ち、万一落下した場合も回収が容易です。長期使用品のリユースが可能でライフサイクルコスト削減にも貢献します。
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2.港湾施設に

浮桟橋
耐水性・耐食性に優れ防腐処理の必要が無く、水質に影響を及ぼさないため環境に配慮した設計が可能です。
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3.鉄道施設に

合成まくらぎ
コンクリートと同等の品質安定と耐久性能をあわせ持ちながら木材のように施工でき、鉄道会社各社に採用されています。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
会員登録済みの方
未登録の方











—— 別所線に乗ろう! ——
「信州の鎌倉」と称される長野県で最古の温泉地、別所温泉への湯治客を誘う目的として敷設されたとされる別所線。上田駅を出発すると、記事にも出てきました「赤い橋」が見えてきます。こちらを渡って30分程で終点の別所温泉駅に到着です。
国内外のお客様が大勢、降車されると旅館へのご案内も活況。駅舎は本当に趣き深く、みなさんこぞって写真を撮られています。
駅の周りには徒歩圏内に旅館や日帰り温泉があり、乗り鉄旅も捗ります。また3ヶ所の共同浴場(外湯)では貴重品のロッカーが有り、タオルも販売されているので、手ぶらでOK!(ドライヤーの有無はWEBサイトで確認してくださいね)
大湯は木曽義仲公ゆかりの葵の湯、石湯は真田幸村公隠しの湯と謳われているんですって。これには歴史ファンも大満足。何度でも別所線に乗って訪れたくなりますね!