伊⾖箱根鉄道 駿⾖線
⾕⼾川橋梁(伊⾖⻑岡駅〜⽥京駅間)
FFU合成まくらぎ 現場レポート#01
積⽔化学が1980年にFFU合成まくらぎを開発し、おかげさまで45年が経ちました。
近年は国庫補助⾦を活⽤しながら、ご採⽤いただく鉄道会社様が増えております。
⻑寿命化や保線業務の省⼒化に⽋かせない合成まくらぎについて、伊⾖箱根鉄道様にお話を伺いました。
Introduction
静岡県の三島から修善寺までの区間を結ぶ駿⾖線と、神奈川県の⼩⽥原から⼤雄⼭を結ぶ⼤雄⼭線の2路線をもち、「いずっぱこ」の愛称でも知られる伊⾖箱根鉄道は地域の交通インフラを⽀えている他にも、沼津市の⽔族館「伊⾖・三津シーパラダイス」の運営などを⾏われています。
近年では沼津市を舞台とするアニメ作品とのコラボ企画も⾏っており「聖地巡礼」のお客様も多く訪れています。
伊⾖箱根鉄道様では⽼朽化した枕⽊の更新にエスロンネオランバーFFU製合成まくらぎを採⽤されており、採⽤の経緯やメリットについて鉄道部技術課の皆様にお話をお伺いしました。
インタビュー : 2025年3⽉4⽇ 伊⾖箱根鉄道株式会社 会議室
Guest
鉄道部技術課
保線区副区⻑ 藤井様
係⻑ 加藤様
主任 佐々⽊様
Interview
耐腐⾷・絶縁性・軽量の合成まくらぎ
- ———最初に皆様の業務についてお教えください
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佐々⽊様 : 鉄道部技術課では鉄道運⾏に関わるハード⾯の管理を⾏っています。⼤きく分けて電気・⾞両・保線の部⾨に分かれているのですが、私たちは線路の保守を⾏う保線業務を担当しています。
列⾞が安全に運⾏するために、線路のレールや枕⽊、道床から、踏切や橋梁、駅設備などの点検・整備・補修が主な仕事です。私は主任として保線業務の取りまとめを⾏っています。加藤様 : 私は現場で必要な資材の購⼊や⼯事の発注業務が主な仕事です。鉄道事業は国の許可を得て⾏っていますから、今回のような枕⽊を交換する場合にも、国の許可や補助⾦関係の申請が必要になります。そのような事務⼿続きを本社で⾏っております。
藤井様 : 私は駿⾖線保線区の副区⻑として主に現場作業を指揮しています。駿⾖線の保線区では12名ほど在籍しており、線路の点検業務や⼯事などの作業を⾏っています。
鉄道部 技術課 主任
佐々⽊ 勝利 様
- ———枕木についてお伺いします。伊豆箱根鉄道様で使用されている枕木の数はどれくらいでしょうか?
- ———枕木の材質によってどのように使い分けられているのでしょうか?
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藤井様 : 我が国の鉄道の歴史としては、当初の枕⽊はクリやヒノキなどの⽊材が使⽤されていました。1964年の東京オリンピックの頃、新幹線開業に合わせてプレストレスト・コンクリート(PC)製の枕⽊が普及した、と聞いています。⽊製に⽐べて耐久性が⾼く、重量があり動きにくいので軌道狂いが少ないのが特⻑です。
ただ、PCまくらぎが適さないところもあります。列⾞の進路を変更する分岐器部では通常より枕⽊が⻑尺となり、規格化されたPCまくらぎでは対応できず、橋梁部ではコンクリートの重量は致命的です。また分岐器と橋梁部のどちらも状況に応じた加⼯が必要なことが多く、従来は⽊製の枕⽊が使われてきました。この⽊枕⽊を更新する場合には、⽐較的新しく登場したFFUのような合成まくらぎを使⽤することが多くなっています。
鉄道部技術課 保線区
副区⻑ 藤井 紀行 様
- ———伊豆箱根鉄道様ではいつ頃から合成まくらぎを使用されているのですか?
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藤井様 : 最初は1995年頃、私が⼊社して間もない頃でおぼろげなのですが、積⽔化学さんのFFUを採⽤しました。本数は少ないですけれど、分岐器のモーター部が設置される⻑さ3700mmの枕⽊で、⽊製では腐ってしまったり緩みになったり⽀障が出るのです。そういう箇所から試験的に使⽤したのだと思います。
積⽔化学の営業担当の⽅からは、鉄道総合技術研究所によるFFU合成まくらぎの10年評価が完了した後に普及が進んでいったとお聞きしました。積⽔化学 : おっしゃる通りで、鉄道総合技術研究所がFFU合成まくらぎの10年評価を終えたのが1991年で、それからJR様や⺠鉄各社様へ採⽤が広がっていきました。
藤井様 : FFU合成まくらぎを使⽤した⼀番の理由は、腐⾷しないことです。枕⽊は⽝釘という釘でレールに固定するのですが、どうしても鉄は⾬⽔や湿気で錆びるので、その錆が⽊に影響を与えてしまう。当然ながら天然物なので腐ったり、繰り返しの荷重によって傷んでくるので、交換が必要になってきます。そういうところでは合成まくらぎを使⽤します。
次に重量ですね。軽量であることは⾮常に⼤事です。分岐器に⽤いられる枕⽊は⻑尺になるので、⽊といえども驚くほど重たくなってしまいます。もちろん橋梁部でも軽い⽅がいいですし、軽量であれば作業もしやすいですから。また絶縁性能も重要です。
- ———更新工事の計画はどのように行われるのでしょうか?
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加藤様 : 前提として線路の状態を毎年1回、全ての部材にかけて検査しています。レールが歪んでいないか、枕⽊が腐ってないか、割れてないか、といった検査です。軌道の計測検査は列⾞が運⾏していない夜間に⾏います。⼿押し型の計測機械で、全線を歩いて検査しています。
その検査をもとに次年度、もしくは数年にかけてどのような⼯事が必要かを検討していきます。枕⽊やレール、砕⽯の⼊れ替え、踏切や橋梁の補修などさまざまな⼯事をその規模や予算など、複合的に勘案して計画します。
場合によっては同時に複数の⼯事を進⾏していくこともあります。
鉄道部技術課 係⻑
加藤 治久 様
- ———木製の枕木は何年くらいで交換が必要になるのでしょうか?
- 藤井様 : 経験的に⼤体10年から25年ぐらいの間ですね。年数は条件によって異なり、橋梁だと直接地⾯に触れてないので腐⾷しづらいということもありますし、荷重を多く受けるような所だとその分早く劣化が進み、割れてしまったりします。
当社ではケンパスという⽊材を使っているのですが、天然のものですから同じ⽊材でもものによって持ちが違うんです。また、枕⽊の⼤きさによって断⾯積が違いますから、防腐剤を内部に注⼊した時の浸透度合いも異なります。断⾯積が⼩さければ染み込みやすいし、⼤きくなるとどうしても真ん中の⽅が染み込みが悪いのか、腐りやすいように思います。
- ———FFU合成まくらぎを使用した更新工事について教えてください
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藤井様 : 近年の事例では、駿⾖線の⾕⼾川橋梁で2019年度にFFU合成まくらぎに交換しました。それ以前は1995年から⽊製枕⽊を部分交換しながら24年間使っていました。
また、今年度(2024年度)に⼤雄⼭線の狩川橋梁でFFUまくらぎ化しました。こちらは1998年に中古の⽊製枕⽊に交換してから26年使⽤していました。
狩川橋梁の更新⼯事は年明けから施⼯を始めて、1か⽉ほどで144本の枕⽊を交換しました。
橋梁部の⼯事と普通の地⾯の⼯事との違いは、枕⽊を横に抜けない、ということです。普通の軌道は、地⾯を掘って枕⽊を横から引き出すことができますが、橋梁部ではそれができません。
枕⽊が囲いの中に⼊っていたり、橋桁が邪魔して、レール締結装置を緩めてレールの⽚側を⼤きく上げないと枕⽊を引き抜けないので、地⾯の上と⽐べて⼿間はかなりかかります。さらに交換する際に枕⽊やレールを傷めてしまいます。
こういった⼯事も規模が⼩さければ我々で対応できますが、狩川橋梁のように規模が⼤きいと協⼒企業さんにお願いして対応してもらいます。加藤様 : 橋梁部に関しては、橋桁とレールの⾼さにシビアな調整が要求されます。事前に⾃分たちで測量をして計画線路の⾼さを決め、そこから何mm下がったところに枕⽊がくるように計算するなどの必要があり、1mm単位で枕⽊を削ったり、橋桁が乗る箇所を加⼯したりと時間と労⼒と知恵も必要になります。
⾼さだけでなく、線路の横の歪みも枕⽊の位置によって決まるので、そちらも1mm単位の調整が必要になります。使われる枕⽊は1本1本が特注みたいなものですね。
今回の狩川橋梁の枕⽊もある程度、⼨法を指定して作ってもらったのですが1本1本の枕⽊で個別に調整する必要があり、⾃分たちで再度墨出しをして削りました。144本の内120本くらいを加⼯したと思います。
そういう場合でもFFUのような合成⽊材は、軽量なのでひっくり返したりするのもラクで加⼯しやすいですね。積⽔化学 : 橋まくらぎの⾼さについては1mm単位での加⼯が可能ですので、ぜひご指⽰ください。
- ———更新工事に行政の支援制度がありますか?
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加藤様 : 鉄道の安全のための投資に対する⽀援制度があり、狩川橋梁の⼯事では国から費⽤の3分の1を⽀援していただき、残りの3分の2が当社による負担で更新できました。
税⾦を使わせていただくので、価格の妥当性や無駄遣いをしていないかをチェックする厳しい審査があります。将来にわたり安全・安⼼に鉄道を利⽤していただくために必要なことですから、慎重に申請書類を作成しています。材料費はもちろん⼯事費でも⽀援を活⽤させていただいております。
⽊製枕⽊は10年くらいで腐⾷してしまうこともありますが、合成まくらぎなら20年・30年交換する必要がなく、耐久性も上がるので線路の安全性の向上に繋がり、公的⽀援の基準にも適しています。
- ———FFUにより安全な鉄道運行に貢献することができ、何よりです。今後も安全をサポートするために積水化学へのご要望はありますか?
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藤井様 : 鉄道施設の更新⼯事を⾏うには申請が必要になるということは申しあげましたが、使⽤する資材がJIS規格に適合しているかどうかがポイントになってきます。合成まくらぎは⼨法によって規格化されていない場合があり、規格化されている場合と⽐べて⻑くて3か⽉くらい認可申請に時間がかかってしまいます。
あまり多いケースではありませんが、規格化が広がればピンポイントの⼯事にもスムーズに対応できるようになります。佐々⽊様 : 鉄道に関わる仕事というと運転⼠や⾞掌のイメージが強いなかで、我々のような技術の⼈間にスポットライトを当てていただいてありがとうございます。保線という仕事をもっとアピールしていき、地域の皆様の⽣活を⽀える存在として今後も安全な運⾏に努めてまいります。
———本日は貴重なお話をいただきありがとうございます。これからもFFUを通して鉄道の安全運行に貢献できるよう提案していきますので、よろしくお願いいたします。
FFU合成まくらぎ 現場レポートマップ
Products
今回ご紹介させていただいた製品
ガラス長繊維強化プラスチック発泡体
エスロンネオランバーFFU
製品解説———
エスロンネオランバーFFUは、硬質ウレタン樹脂発泡体をガラス長繊維で強化した合成木材です。天然木材に代わる素材としてあらゆる分野で使用可能。自然環境保護に役立つ素材として注目されています。

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1.天然木材のように

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2.プラスチックだから

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1.水処理施設に

覆蓋
耐久性に優れ、水に浮く軽さを持ち、万一落下した場合も回収が容易です。長期使用品のリユースが可能でライフサイクルコスト削減にも貢献します。
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2.港湾施設に

浮桟橋
耐水性・耐食性に優れ防腐処理の必要が無く、水質に影響を及ぼさないため環境に配慮した設計が可能です。
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3.鉄道施設に

合成まくらぎ
コンクリートと同等の品質安定と耐久性能をあわせ持ちながら木材のように施工でき、鉄道会社各社に採用されています。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
会員登録済みの方
未登録の方








—— ⼤雄⼭線に乗ろう︕ ——
神奈川県⼩⽥原市の⼩⽥原駅と、南⾜柄市の⼤雄⼭駅とを結ぶ、9.6キロの路線です。
開業は1925年と今年で100周年を迎えるこの路線は、600年以上前に建⽴された道了尊で有名な最乗寺への参詣鉄道として計画されたそうです。
近年では沿線にある⼯場などへの通勤の⾜としての役割も担い、多くの乗客に親しまれています。
また終着駅であります⼤雄⼭駅には「まさかりかついで ⾦太郎〜♪」でおなじみの⾦太郎と熊の銅像がお出迎え。さらに運がよければ97年前の昭和3年に、⽇本国有鉄道(国鉄)の前⾝である鉄道省にてモハ30166として新製された、コデ165が留置されているのを⾒られるかも。駅舎もかわいく、何度でも乗りに⾏きたくなりますね︕