秩⽗鉄道様 秩⽗本線とJR⾼崎線が交差する
「乗越橋梁」をFFU合成まくらぎでリニューアル︕

  • #エスロンネオランバーFFU
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荒川橋梁を渡る貨物列⾞

FFU合成まくらぎ 現場レポート#03

積水化学が1980年にFFU合成まくらぎを開発し、おかげさまで45年が経ちました。
近年は国庫補助金を活用しながら、ご採用頂く鉄道会社様が増えております。
長寿命化や保線業務の省力化に欠かせない合成まくらぎについて、秩父鉄道様にお話を伺いました。

Introduction

秩父鉄道は、埼玉県の羽生駅から三峰口駅までを結ぶ秩父本線71.7Kmと、武川駅から三ヶ尻駅を結ぶ貨物専用線の三ヶ尻線3.7Kmで列車が運行されています。
秩父鉄道の特色として旅客輸送の他、“都心から一番近い蒸気機関車”として「SLパレオエクスプレス」や、ホッパ車が連なる石灰石輸送の貨物列車など、高重量の列車が走っています。
貨物専用線の終点・三ヶ尻駅には太平洋セメント株式会社の熊谷工場があり、秩父地域の武甲山から採掘された石灰石(セメント原料)を影森駅から、群馬県の叶山で採掘された石灰石を武州原谷駅から、それぞれ貨物運搬を行っています。

(右) 技術部 施設課 課長 中西 圭介 様
(中央) 施設区 熊谷施設班 班長 新井 悦夫 様
(左) 施設区 熊谷施設班 技術主任 山崎 貴雅 様

日々の維持管理業務にて、秩父本線とJR高崎線との交差部にある乗越橋梁の木製枕木に劣化を確認。できるだけ早期の交換が待たれていました。しかし、他線との連携が必須となる難しい現場であったため、枕木の交換を進められずにいましたが、この度、積水化学のエスロンネオランバーFFU合成まくらぎが採用されました。
FFU合成まくらぎのご採用に至った経緯や日々の業務、今後の維持管理の展望について、秩父鉄道株式会社の皆様にインタビューいたしました。

インタビュー : 2025年4月21日

Guest

秩⽗鉄道株式会社鉄道事業本部
技術部 施設課 課⻑ 中⻄ 圭介 様
施設区 熊⾕施設班 班⻑ 新井 悦夫 様
技術主任 ⼭崎 貴雅 様

Interview

長寿命・高耐久のFFU合成まくらぎ

———まずは、秩父鉄道様についてお教えください

中西様 : 1899年の11月に上武鉄道株式会社を設立し、1901年に熊谷駅~寄居駅間を開業しました。これが秩父鉄道の始まりになります。さらに、1903年4月に波久礼駅まで開通させ、その後、武甲山からの石灰石資源を活用したセメント関連産業、さらに東京から人を呼び込む観光事業も展開するべく秩父盆地への延長工事に取り組みます。1914年、秩父駅まで開通し、これに伴い1916年に秩父鉄道株式会社に改称しました。

———秩父といえば三峯神社や長瀞などの景勝地が有名ですが、設立の目的は観光輸送だったのでしょうか
中西様 : 元々は景勝地でもある荒川を利用し水運でどうにか物資を運んでいました。しかし秩父地方は四方を山に囲まれており、どうしても交通や物流にハンデがありました。土地の発展のために鉄道が必要不可欠だったんですね。これが秩父鉄道が生まれた発端です。武甲山の石灰石に着目し1923年に秩父セメント(後の太平洋セメント)の設立によって、石灰石輸送が開始されました。それにより秩父鉄道の業績も好転し経営の新しい柱となりました。
一方で熊谷駅~羽生駅間は北武鉄道という会社によって敷設が進められ1922年8月に開通すると、秩父鉄道が北武鉄道を吸収合併し二つの路線が一体化しました。
その後、長瀞を中心とした観光事業も人気を集めることになり、1930年に三峰口駅まで路線がつながり、現在の秩父本線となりました。
———貨物で運ばれるのは、今も石灰石なのでしょうか
中西様 : そうですね。当社はセメントの製品輸送は2006年に終了し、現在は石灰石のみの輸送になります。三ヶ尻駅に太平洋セメントの工場がありまして、石灰石は全て集められます。貨物専用駅である武州原谷駅では、群馬県の叶山からベルトコンベアで運ばれた石灰石を武州原谷駅に運んでいます。影森ルートと武州原谷ルートではおおよそ半々くらいの割合で石灰石が運ばれています。
貨車が20両で運行しておりまして、だいたい1回で約700トンの石灰石を運んでいます。それを三ヶ尻まで運んで空車で戻ってきて、また運んで・・・。工場の生産状況によって回数が変わってまいりますが、1日7~8本を運行していますので、トータルで約5,000トン/日の計算です。
———石灰石を運ぶ貨車は普通の旅客車とくらべ重量は重いのでしょうか?

中西様 : かなり重いです。石灰石を運ぶ貨物列車の機関車の重量は約50トン。35トンの石灰を積載できる貨車を20両、牽引していますので概算で750トンにもなります。
これは地方鉄道の中でもかなりの重量を運んでいます。当然、それを維持していくメンテナンス費用がかかってしまいます。車両が重くなる分、レールや枕木の負担は全然変わってきます。来年度では通トンが高いところにもFFU合成まくらぎの採用を検討しています。
※通トン:通過する列車の延べ重量

石灰石を運ぶホッパ車
———秩父鉄道様ではSLパレオエクスプレスが有名ですがやはりSL車両も重いのでしょうか
中西様 : SLに関しては、機関車(C58形)の重量が58.7トン。水や燃料を搭載する炭水車が運転時に41.5トンで計約100トン。これに4両の客車を繋げ、お客様が着席する約330席の座席の重量が加わります。
また重さもさることながら、SL車両において問題なのは車軸が固定軸構造であることです。現代の車両は、車軸あるいは車台全体が回転・首振りすることでスムーズにカーブを曲がります。固定軸構造の場合はカーブの時に車軸を横方向(カーブ方向)に首をふることができません。そのためレールとの摩擦が大きくなり軌道への負荷が甚大になってしまうんですね。SL列車は365日動いているわけではなく、今年は90日の運転を予定していますが、年間90日の運転でも軌道に与える影響はとても大きいです。
———続いて保線業務についても教えてください
中西様 : 現場を保守する現業機関として、熊谷班・寄居班・秩父班の3つの班があり、保線業務についています。
また、3つの班を統括する施設区というところでは保全関係の業務・設備の検査や補修計画の策定を行っており、これらの班と施設区により線路の維持管理をしています。
———保線業務は目視で行うのですか?

新井様 : レールや枕木、施設物、橋梁などの環境全般を日々巡回しており、基本的にはすべて目視で行っています。
レールにかかる重量を通トンで表すと、年間で羽生駅~武川駅(旅客のみ)で約350万トン、武川駅~影森駅(旅客+貨物)で約600万トン、影森駅~三峰口駅(旅客のみ)で100万トンになります。

———2024年の秩父夜祭へ、別件の取材でお邪魔させてもらったときに架線を外しているのをお見受けしました。

中西様 : 夜祭が開催される12月3日は毎年、夜祭専用のダイヤにて運行しています。御花畑~影森間にある団子坂のところを山車(だし)が走行する際に、電線の高さより高い山車が通りますので、架線を取り外す必要があるのです。山車が上り下りする時間帯は架線がないので、当然電車は入ってこれません。この時間帯だけ、秩父~影森間を運休とする区間運転をしています。
この時期の旅客対応は特に気を付けて対応しています。夜祭の日は列車を増発した特別ダイヤで運行していますし、この日のために余力をもった電車の本数を保有しているような感覚ですね。
秩父夜祭が長い歴史をもったお祭りですので、当然架線の取り外しもずっと昔から行われています。

架線の取り外し作業
踏切を通過する山車
———ありがとうございます。では次に、合成まくらぎについて伺わせていただきます。今回採用された現場について概要を教えてください。

中西様 : 2024年に採用した現場は、熊谷駅近くの当社がJR高崎線の上側を乗り越す形で立体交差する箇所の橋梁になります。
2012年に木枕木の劣化が問題として挙がり、樹脂等による注入、表面コーティングなどを行って延命処置をしましたが、3年前にリミットが迫っていることがわかりました。
改めてJR東日本様と協議を行い、施工するパートナー会社も紹介していただき、3年がかりで各社と連携し工事計画を立て、予算を確保しました。
将来的にメンテナンスの頻度や出費は抑えたい、JR東日本様に度々迷惑を掛けられないことから、長寿命化でき、軽量で施工性も良いFFUを採用させていただきました。

老朽化した木枕木

実は2011年、私が入社2年目の頃に積水化学の営業の方が提案に来られ、黒谷川橋梁で初めてFFU合成まくらぎを採用したことがあります。当時から今後設備投資していくなら橋梁は合成まくらぎが適していると社内で評判が良かったことも採用理由になります。

山崎様 : 以前採用した黒谷川橋梁は直線区間でした。今回採用されたのは"曲線"の区間だったので、現場としては合成まくらぎのノウハウがなく、耐久性があり軽量な合成まくらぎで挑戦してみよう!という気持ちが強かったです。

施工後のFFU合成まくらぎとFFU合成歩行板

中西様 : 2024年の工事ではJR東日本様に運行に関する安全対策を取っていただき、色々と協議を重ねながら無事に完工出来たので、大変感謝しています。

FFU合成まくらぎを施工した橋梁
上側:秩父鉄道 下側:JR高崎線
———改めまして、枕木の種類の使い分けを教えてください
中西様 : 当社の路線の枕木総数は、約16万本です。うち、本線と重要側線部でだいたい11万本くらいになります。
この20年でPC化を進めて来まして、約4万7000本がPCまくらぎに替わりました。残りの約6万本が木製枕木となります。現状ではFFU合成まくらぎは70本程度です
使い分けとしては道床部の区間はPCにしていくことになると思います。一方で分岐部や橋梁部に関しては今後、木製から合成まくらぎに変えていきたいと考えています。
———まくらぎの材質によって保線業務に違いはあるのでしょうか
新井様 : 締結具合が変わってきます。例えばPCまくらぎをボルトで締結している場合であれば、目視でわかることが多く、ラチェットで締め直すだけで済むことが多いです。木製枕木ですと犬釘で止めているだけの場合があります。その場合は補修剤を入れたりします。タイプレートで止まっている場合はそのボルトを締め直す必要があります。
PCと木製枕木でもこれだけの違いがあります。
———木製枕木の寿命はどのくらいなのでしょうか

山崎様 : 場所によってまちまちというのが現況でしょうか。だいたい10年くらいだと思います。
水気が多くて濡れやすい場所では、寿命は短めです。日陰が多くて水気が飛ばず、水はけの悪い所に接しているとやっぱり腐りやすいです。

中西様 : 一番寿命が短いところは、雪が降って固まってしまうな場所です。秩父駅から三峰口駅間は日陰が多い場所なので、1回雨や雪が降るとなかなか乾かないんです。このエリアの保線業務は大変です。
今思うと、こういった日陰にもFFU合成まくらぎは良さそうですね。やっぱり腐らないことが一番です。
木製枕木は、見ただけでは腐食しているのか全然わからないんですね。外見は綺麗でも叩いたりといった検査をして初めて中が腐食していることが分かることが多々あります。
中から腐食し始めると空洞化が進み、ある日突然使えなくなる、ということも結構あります。分岐器の可動部であるトングレールのところは枕木の交換頻度が高く、毎年のように材料を購入しているんです。
木はストックするのが難しくて、最初から若干反っている木は、そのまま置いておくと本当に曲がってしまったりするんです。そうなると使えなくなってしまいます。そのため木製枕木は届いたらすぐに敷設する必要があるんです。
しかし、FFU合成まくらぎであればその心配がありませんから、保守班によっては合成まくらぎの在庫を持っています。PCだけに限らず、FFUの並まくらぎも持っておけば、いざというときに敷設できます。

———177か所ある橋梁についても、今後FFU合成まくらぎに変えていくのでしょうか
中西様 : 他にも乗越橋梁があり、2年に1回くらい、合成まくらぎへの更新工事を行いたいです。他社様に迷惑をかけないように優先的に考えています。
その次に、秩父鉄道のメインとなる長大橋梁『荒川橋梁』ですね。平成18年と19年の2年をかけて、木枕木を交換したことがあります。工事から20年経っていますが、日当たりが良い事もあり、それほど腐食は進んでいない状況です。
枕木更新の手間を後の世代に残さないためにも、いずれは河川橋梁についても合成まくらぎに取り替えていきたいです。橋以外に開渠等の用水路でも木枕木の腐食が進んでいると危険ですので、合成まくらぎで長寿命化が見込めるのではないかと思います。
———最後に積水化学への要望やご意見があればお聞かせください

山崎様 : レールの継ぎ目部の下を井桁で補強しているのですがFFUでも作れたりするのでしょうか?

積水担当 : 井桁まくらぎもご提案可能です。他にもお困り事があればご相談いただければと思います。

山崎様 : 簡易踏切用の踏切板にもFFUの仕様を検討しています。今は廃プラ材を使っていますが、FFUは現地の形状に合わせて切ったりできるものなんですか?

積水担当 : はい。木材と同じように加工ができます。電動工具による切削加工、穴加工の手順をご説明した「施工ハンドブック」をホームページ上で公開しております。
ガラス繊維が入っている為、超硬チップ付き刃物や超硬ドリルの使用が望ましいです。何かお困り事が見つかりましたら是非ご相談いただけたらと思います。

山崎様 : ありがとうございます。その際には改めてご相談させていただきます。

———ありがとうございました。今後も鉄道設備の保守にお役に立てますよう精進いたします。

—— 秩父鉄道に乗ろう! ——

東京都心から、いちばん近くで蒸気機関車(Steam Locomotiveの頭文字を取ってSLとも)に乗れる秩父鉄道。2025年は4月から12月初旬の土日祝日を中心に熊谷駅から三峰口駅を1日、1往復運転されています。ここ秩父で初めてSLを見るお子様も、昔に乗ったことがある諸先輩方も力強い汽笛の一声を聞くと、ワクワクしますよね。客車は元JR東日本の12系が4両。表定速度は25km/h前後と、ちょっとのんびりですが、沿線の景色をじっくり見る事ができますよ!
他にも秩父といえば関東屈指のパワースポット「三峯神社」や、川下りが人気の「長瀞(ながとろ)」など有名スポットが目白押し。荒川の上流部だけあって、巨岩や岩畳を望む雄大な景色は春は桜、秋は紅葉と季節によって様々な姿を見せてくれます。
オススメの撮影スポットの1つとして、荒川橋梁(通称:親鼻(おやはな)鉄橋)があり、季節の色を背景にSLを撮影できるかも。これは各シーズンごとに秩父に訪れたくなりますね!


Products

今回ご紹介させていただいた製品

ガラス長繊維強化プラスチック発泡体
エスロンネオランバーFFU

製品解説———

エスロンネオランバーFFUは、硬質ウレタン樹脂発泡体をガラス長繊維で強化した合成木材です。天然木材に代わる素材としてあらゆる分野で使用可能。自然環境保護に役立つ素材として注目されています。

特長
  • 1.天然木材のように

  • 2.プラスチックだから

施工例
  • 1.水処理施設に

    覆蓋

    耐久性に優れ、水に浮く軽さを持ち、万一落下した場合も回収が容易です。長期使用品のリユースが可能でライフサイクルコスト削減にも貢献します。

  • 2.港湾施設に

    浮桟橋

    耐水性・耐食性に優れ防腐処理の必要が無く、水質に影響を及ぼさないため環境に配慮した設計が可能です。

  • 3.鉄道施設に

    合成まくらぎ

    コンクリートと同等の品質安定と耐久性能をあわせ持ちながら木材のように施工でき、鉄道会社各社に採用されています。

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