現場レポート

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千里山排水区雨水管路整備工事第101工区

優れた水理性・施工性・経済性・環境性(騒音・振動)、
そして維持管理性も兼ね備える高落差処理施設

埼玉県熊谷市 市立中学校のトイレ排水管改修に耐火VPパイプが採用_メイン

インタビュー:令和3年7月
吹田市 下水道部管路保全室 藤原 宏彰さん


工事のあらまし

近年、気候変動に伴う異常気象により全国各地で水害が多発しており、各自治体では市民の人命や財産を守るため浸水対策施設の整備を鋭意進めています。そうした中、吹田市では浸水被害に悩まされている千里山地区において雨水幹線のルート変更工事を行っており、その高落差処理施設として「中心筒昇降型ドロップシャフト」が採用されました。

発注者:吹田市
施工 :紙谷工務店
工事名:千里山排水区雨水管路整備工事第101工区(上の川浸水対策工事)

吹田市の浸水対策の取組みやドロップシャフト採用に至った経緯を吹田市下水道部管路保全室の藤原宏彰さんにお伺いしました。

福吹田市下水道部 管理保全室 藤原 係長さん 吹田市 下水道部管路保全室 藤原 宏彰さん

今回、浸水対策工事(ルート変更工事)の経緯を教えてください。

大阪府が管理する一級河川「上の川」には、降雨の際に近隣地区の雨水が流れ込みます。千里山東一丁目で川の断面が小さくなる区間(ボトルネック区間)があり、豪雨の際には近隣地区からの雨水を飲み込み切れずに浸水してしまうことが過去何度か発生していました。
このため、ボトルネック区間の上流に流していた雨水を、ボトルネック区間を避けて下流側から流せるよう雨水管路のルート変更を行う工事を行うこととしました。

現場ならではの悩みを教えてください。

ルート変更工事では、推進工法によりΦ1100及びΦ1200の雨水管を全長約380mにわたり布設しました。ただ、この地域は急勾配の坂が多く、布設した雨水管についても上下流で10mもの高低差が生じました。このため落差処理施設が必要となりました。

ドロップシャフトを埋め込む立坑と工事現場周辺の様子

落差処理施設を設置する上ではいくつかの制約があったと聞いています。

工事現場は道路幅員6・6mと狭く、立坑径は非常にコンパクトなものが求められました。加えて周辺は閑静な住宅街であるため、雨水流入時の騒音や振動を最小限に抑える必要がありました。

また、架線が多数輻輳していることもあり、工事に使用する機材・車両にも制限が伴います。こうした条件に合致する工法を選ぶ必要がありました。

工法選定の上でのポイントは。

落差処理施設は、1.千鳥式落差工 2.落差マンホール 3.ドロップシャフトと、大きく三つの選択肢があります。経済性や環境性(騒音・振動)、立坑径、そして空気連行率などを総合的に比較検討した結果、ドロップシャフトを採用することとなりました。

今回の現場では、新型(中心筒昇降型)のドロップシャフトを採用いただきましたが、その決め手は。

内部部署(建設・維持管理部門)で協議する中で、維持管理部門の職員から「点検や管理のため、上から底の流出管まで何とか降りられないか」という打診があったのがきっかけでした。
道路幅員が狭小という用地制約もあったもののコンサルタントやメーカーにヒアリングしたところ、昇降施設を中心筒内部に設けたドロップシャフトがあると知り、採用することとしました。設置寸法を変えずに済むこと、水理特性などは従来品と遜色ないことなどが決め手ですね。

工事の大まかな流れを教えてください。

まずφ2500ミリメートルの鋼製ケーシングで掘削し、内部に4号組立人孔(内径1800ミリメートル)を設置します。その内部にドロップシャフト本体を芯出しして設置・固定し、最期にドロップシャフトの中に中心筒を芯出しし固定するというのが大まかな流れです。工場製品を現場に搬入し据付けていくというものですので施工性が高く、短期間で終了しました。
ドロップシャフトの吊下ろしは13トンクレーンで行えましたが、今回のような住宅街ではこれ以上のサイズのクレーンの運用は難しいのではないかと思います。

今回の現場以外でも浸水対策工事の予定はありますか。

平成14年度に「雨水レベルアップ整備計画」を策定し、この計画に基づき雨水幹線をはじめとする浸水対策施設の整備事業を進めています。
現在、その事業の一環として「中の島・片山工区」で雨水管の建設を進めています。φ2800とφ900の大口径管を合計約3km築造する一大プロジェクトでありますが、この工事でも高落差処理施設8カ所の設置が計画されています。
この全てでドロップシャフトを採用する予定で、このうち2カ所については今回の工事同様に中心筒昇降型ドロップシャフトで考えています。

工事概要図2
雨水レベルアップ整備工事 中の島・片山工区

ありがとうございます。これからも吹田市様の治水安全度の向上につながるような製品の開発・提供に努めてまいります。

工事概要図
千里山排水区雨水管路整備工事第101工区(上の川浸水対策工事)

紙谷工務店 常務執行役員土木部長 島津亮三さんに聞く!

紙谷工務店 紙谷工務店 常務執行役員土木部長 島津 亮三さん

はじめに会社のご紹介をお願いします。

当社は、大阪府吹田市に本社を構え、東京・札幌および近隣の池田市に支店を持ち、土木・建築工事に広く取り組んでいます。その中でも推進工事については自社による施工で全国各地での施工に取り組んでまいりました。

工事現場の特徴は。

現場周辺は比較的古い閑静な住宅地であるため、騒音や振動等が大きくならないように、排気ガスを含め環境負荷の低減には特に気を配っています。ドロップシャフトの設置に当たっても大きな騒音・振動等は発生せず、予定していた工程よりも早く設置でき沿道住民の方々からも喜んでいただくことができました。

荷卸しされたドロップシャフト

安全対策や施工管理にも細心の注意を払ったとか。

ドロップシャフトの設置時には、クレーンによる吊下ろし作業が伴いますので、事故防止のため協力会社職員だけでなく作業員全員を含んだ打ち合わせを細部まで綿密に行い慎重に工事を進め、6月中旬にドロップシャフトの設置を無事完了しました。

その他、工事を進めるに当たり創意工夫などは。

仮囲いスペースを利用して、春の桜満開の江坂公園、夏の賑わうサッカースタジアムといった吹田の四季をイラストで紹介し、ささやかですが地元を応援させていただいています。

これまでも地元で数々の案件に携わってきたと伺っています。

平成15年に大阪府が上の川の調節池の工事を発注された際も当社が受注し、近傍の雨水排水管路も多く施工してきました。また、発進基地用地は以前、千里山浄水所として使用されていた施設跡地で地下埋設物が多く輻輳しており不明の残置物出現は常に想定するようにしています。
こうした伝承されてきた施工実績をリスクマネジメントの際に活かし、良い成果物を完成させ、浸水対策の面から市民の安全・安心に貢献していきたいと考えています。

ありがとうございました。

施工手順

動画でさらに分かりやすく施工手順を確認できます!

STEP1
施工現場(狭小道路・住宅街)

STEP2
ドロップシャフトを現場に搬入

STEP3
ドロップシャフトをクレーン吊上げ

STEP4
ドロップシャフトを立坑内に搬入

STEP5
中心筒を立坑に搬入

STEP6
中心筒の設置完了

浸水対策とは?高落差処理とは?

出典:吹田市ホームページ 雨水レベルアップ整備事業より
https://www.city.suita.osaka.jp/home/soshiki/divgesuido/kanrohozen/_89890/_81931.html

雨水の流れる先

地表に降った雨は、その大半が地下へと直接染み込みますが、都市部では地面がアスファルトやコンクリートに覆われ、その浸透機能が失われつつあります。この行き場を失った雨水を効率的に排除するための施設が浸水対策施設になります。道路脇にある側溝なども実はこうした施設の一部になります。
雨は、住居の雨といや道路上のグレーチングぶたなどの集水施設から地下に張り巡らされた雨水管へと流入します。流入した雨水は下流に向かうにつれ徐々に口径の大きな管(雨水幹線)へと合流し、最下流部にて河川や海へと放流されます

地下深くに大規模施設

都市部の地下は鉄道や水道・電力・ガス管など様々なインフラが輻輳していることもあり、直径10mに及ぶような大規模な雨水幹線を築造する場合、深さ数十mもの大深度に及ぶこともあります。
地表で集めた雨をこのような大深度の地下にある雨水幹線へと流すためには、雨水を垂直に流し落とす専用の施設が必要になるのですが、その落差処理を効率的に行う施設の一つがドロップシャフトになります。

高落差処理が鍵

雨水の落差処理は大規模なもので落差50m近くに及びます。ただ単に上流から滝落としで流してしまうと毎秒数トンにも及ぶ水の落下エネルギーで施設を傷めてしまったり、大きな騒音が発生してしまいます。
また、水を落とす際、空気を取り込んだ状態で流してしまうと水が流れにくくなってしまったり、逃げ場を失った空気が下流側に設置したマンホールふたを吹き飛ばしてしまったりと事故の原因につながりかねないのです。

ドロップシャフトはそうした課題を解消するために開発されたFRP製の高落差処理用管材です。
管内部にらせん状に続くスロープ(案内路)が設置されており、雨水が流入するとウォータースライダーのように水流を減勢しながら下部へと送り込む仕組みとなっています。
その独特な構造により空気連行率は5%以下に抑えられているなど優れた水理特性を有しています。
今回の吹田市の工事では、このドロップシャフトに改良を加えた新製品が採用されています。

出典:吹田市ホームページ 雨水レベルアップ整備事業より
https://www.city.suita.osaka.jp/home/soshiki/divgesuido/kanrohozen/_89890/_81931.html

今回ご紹介させていただいた製品

中心筒昇降型ドロップシャフト

埋め込み式でも中心筒の空間を利用してメンテナンス(インナーメンテ)が可能になりました。

特長

・マンホール内中間スラブ
中心筒内に降下するための踊り場で流入部の確認ができます。

・中心筒(Φ900)
昇降部と水流部が分離しているため、安全に昇降できます。
※水が流れている中での昇降はできません。

・中心筒内中間スラブ
中心筒内に中間スラブがあるため安心です。

・最下部はしご
流下時、最下部のはしごは中心筒に格納し、昇降時のみ使用します。

・狭小地に設置可能
従来の必要人孔スペースに比べて約50%以上縮小可能です。設計流量は1基あたり約13m3/sまで対応が可能です。(従来と同等)


ドロップシャフト

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