黒部川扇状地湧水群 [エスロンタイムズ100号]
環境庁認定名水百選「黒部川扇状地湧水群」
富山県黒部市 下新川郡入善町
蜃気楼の町・生地を潤す黒部の自噴水

北アルプスの鷲羽岳(標高2924m)に源を発し、飛騨山脈と立山連峰の間を縫うように流れ、やがて蜃気楼と海の幸で名高い富山湾へと至る黒部川。この黒部川が奥深い山地を抜け、宇奈月温泉を過ぎた辺りから日本海沿岸にかけて広大な扇状地が広がり、環境庁認定名水百選に選ばれた湧水がそれこそ至るところに自噴している。
その「黒部川扇状地湧水群」の中でも黒部川の河口付近にあって自噴水が集中し、共同洗い場など地域住民と湧水の絆が強い黒部市の生地(いくじ)地区を訪ねるべく、北陸本線生地駅に降り立った。
<北陸本線・生地駅(湧水は松の根方に)>

駅の改札口を出ると、早くも湧水のお出迎え。地下60mから噴き出す名水で咽を潤し、いざ生地の町中へ。
駅から黒部漁港まで約1・5kmの道を行く途中にも自噴する湧水。かけ流しの水が道端の側溝へと流れている。
<道端の湧水とカップ>

なにげなく添えられたカップに、この町の人情を感じながらも、『都会であればワンボトル150円はするであろうに』などと、つい、つまらないことを思う心を恥じつつ、向かった先が生地の町の最西端に位置する前名寺。
曹洞宗の禅寺で俗気を払うほどの殊勝さならいいのだが、目指すはこの寺の裏庭に湧く清水(前名寺の清水)。
<「前名寺の湧水」湧き口>

静まり返った境内を過ぎ、裏庭に入らせていただくと草木の茂みの中に小さな泉(タイトルの写真)が。
地下数mの深さに打ち込んだだけというパイプからこんこんと湧き出る清水を眺めているうちに、まるで奥山にある源泉を見ているような錯覚に陥った。
その前名寺を後にして清流の魚、イトヨが棲むという背戸川の流れを下ったところにあるのが中島の清水。
その中島清水の傍の神明町の共同洗い場。その北にある神田の清水、弘法の清水、殿様清水に絹の清水、酒蔵に湧く岩瀬家の清水とそれこそ背戸川と日本海の間の町の辻々に清冽な水が湧きだしている。
<絹しょうじ>

これらの名水を見て、ふと疑問に思ったのが、清水の流れる先が南に向かっていること。
つまり海と反対の方向に流れが出来ていることで、絹の清水(絹しょうじ)で出会った人に尋ねてみると「岩盤が褶曲して高くなったところが海岸線になっていて反対側に流れるらしい」とのこと。
ここまでに名前をあげた清水は全て黒部漁港の西側。
漁港と海の間の水路に架かる日本初の旋回可動橋・生地橋を東に渡ると清水庵の清水。さらにガイドマップに名が載っている清水だけでも第一温泉の清水、源兵サの清水、生地温泉の清水、月見島の清水がある。
<月見島の清水に架かる橋>

これらの清水を巡り歩いたあと、蜃気楼を見ることができるという生地浜に出たのは既に黄昏迫る頃。青鷺らしい大きな鳥が潮風に吹かれながら、じっと波間を見つめていた。
